法科大学院ガイド

中央大学法科大学院
私立(共学)東京 チュウオウダイガク

WEB講義◎行政法を学ぶ意義

行政の活動をコントールする行政法。
行政権の濫用を防ぎつつ、公益の実現も担う。

中央大学法科大学院 教授 土田 伸也(つちだ しんや)
●ヴュルツブルク大学大学院修士課程修了(LL.M.)、中央大学大学院法学研究科公法専攻博士後期課程単位取得退学。愛知県立大学外国語学部ドイツ学科准教授、中央大学大学院法務研究科准教授などを経て、2014年4月より現職。比較法学会、日本公法学会、日独法学会の会員。主な著書・論文に、『実戦演習行政法(第2版)』『公物法理論の内容と機能』。

公益と私益の調整を
どのようにはかるか

 行政法とは、民法や刑法のように統一法典があるわけではなく、行政に関わる諸法令をまとめて扱う法分野である。行政法の中でも特に重要な法律に、行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法、行政代執行法、情報公開法、個人情報保護法があり、法科大学院ではこれらの法律を「行政法」として学ぶ。
 「行政法の数はとても多いですが、まずは、どの行政活動にも共通して妥当する基本原則を理解することが大切です。それが法治主義の考え方で、これによれば行政活動は立法府が作る法律によってコントロールされます。その主な目的は行政権の濫用を防ぐという点にあります。そのため、行政法を学ぶ際には、立法府が個々の行政活動のために設けた要件に着目することが大切です。どのような要件があるのか、また、なぜそのような要件が設けられたのかということを常に意識してほしいと思っています。
もう一つ大切なことは、行政法は公益を実現する役割も担っているということです。ただし、公益を優先するあまり違法・不当に私益を損なってはならず、公益と私益の調整をどのようにはかるべきかを検討することが、個々の法律の要件を解釈する際に重要になります」と、中央大学法科大学院の土田伸也教授が、行政法とその学び方について解説する。

行政法が実現すべき
価値とは何か

 行政による活動は「ゆりかごから墓場まで」といわれるように多種多様なため、ニュースで取り上げられる話題には行政法が関係していることが少なくない。
 「沖縄の米軍普天間基地の名護市辺野古への移設問題は、国と地方の関係をどのように扱うべきかという行政法上の問題が関係しています。また、コロナ禍の中で行政からの時短営業の要請に従わない事業者が現れて話題になりましたが、これは行政法分野で議論される行政指導や、実効性確保の手段と関わっています。さらに、ビックデータの取扱いは個人情報保護法と密接に関係しています」
 行政法は憲法の具体化法ともとらえられることから、行政法を学ぶ際には、憲法規範を踏まえながら、憲法の価値を実現するために個別行政法規をどのように解釈すべきかという視点を持つことも大切だとアドバイスする。

ケーススタディ

●条文がなくても、指定医師の指定を取り消すことができるのか?

 旧・優勢保護法(現・母体保護法)は、行政主体として位置づけられることもある医師会が指定した医師を指定医師と呼び、この指定医師だけが適法に人工妊娠中絶を行うことができる旨、定めていた。このような法制度の下で、ある指定医師が実子あっせん行為を行ったために、医師会は当該指定医師の指定を取り消そうとした。ところが、法律上、指定医師の指定を取り消すことができる旨を定めた明文の規定がなかった。そのため、指定医師の指定の取消しを行うことができるのか、裁判で問題になった。
最高裁判所は、公益上の必要性から、直接の規定がなくても、法律によって医師会に付与された指定の権限において、指定医師の指定の取消しも行いうると判断した。
 このような法律条文の解釈は、法治主義の在り方や、公益と私益の調整の仕方をめぐる議論にも一定の影響を及ぼした。
※実子あっせん行為とは、中絶の時期を逸してもその施術を求める女性に出産を勧め、生まれてきた子どもについては別の女性が出産したとする虚偽の出生証明書を発行することで、戸籍上も別の女性の実子として登録すること。

私の授業
●行政法の基礎に立ち返りながら、応用力を養う双方向・多方向の授業を展開。

 中央大学法科大学院では「行政法」を基本科目とし、「公法総合Ⅰ」等を応用科目として設置しています。
 私が担当する「行政法」は未修者が2年目に、また既修者は1年目に受講する科目で、行政法を基礎から学びます。授業では、行政法の基礎的概念や重要法律の基本的な仕組み等について講義を行っています。このほかに事例形式の問題を検討する「行政法事案研究」の授業も担当しています。具体的紛争を解決できるようにするため、「行政法」の授業で修得した基礎力をさらに確かなものにしつつ、実務家に必要な応用力を養成します。授業の中では、議論の場を設け、当事者双方の立場に配慮しながら、教員と受講者の間で、また、受講者相互間で活発な議論を行うようにしています。その他、琉球大学法科大学院と協力して法的観点から沖縄が抱える問題にアプローチする授業も担当しています。この授業では実際に沖縄に行って、普段の授業とは少し違った角度から法律問題を検討します

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