全国大学院特集

早稲田大学大学院 経営管理研究科
私立(共学)東京 ワセダダイガクダイガクイン

WEB講義◎企業価値創造型経営

企業価値をどのように高めるか。
ファイナンスと戦略の両分野を理解した
企業価値創造型経営者を育成

早稲田大学大学院
経営管理研究科
[早稲田大学ビジネススクール(WBS)]
●佐藤 克宏(さとう かつひろ) 教授
慶応義塾大学法学部法律学科卒業。スタンフォード大学大学院修士課程修了。京都大学経営管理大学院博士後期課程修了。博士(経営科学)。日本開発銀行(現 日本政策投資銀行)、マッキンゼー・アンド・カンパニーのパートナー等を歴任。経済産業研究所コンサルティング・フェローなどを兼務。専門は、経営戦略、ファイナンス、B2Bマーケティング。主な著書に、『戦略としての企業価値』など多数。

投資家と事業家の思考から
企業価値を高める

 私が担当する科目の一つに「企業価値創造型経営」がある。企業価値は、企業の業績や将来性などを総合的に評価したもので、投資家にとっては企業の評価基準となり、経営者にとってはその最大化が経営目標となる。また、企業は営利的な存在であるだけでなく、社会的な存在でもあるべきだという考え方が定着してきている中で、利益を追求するだけではなく、環境や社会に配慮した取り組みや事業展開も企業価値を高める大切な要素となっている。企業価値のとらえ方にはさまざまな考え方があるが、企業の経済的な価値を金額として表すという一般的な概念に立てば「企業価値は、将来にわたって生み出されるフリーキャッシュフローの価値の総和」と言えよう。
 授業では、目先の収益や業績を追求するだけでなく、長期的な視点で企業価値を最大化することを目指す意義、そのために必要な思考とスキルを学んでいく。私は、銀行勤務を経て、コンサルティングファームのパートナーも務めてきたが、これらの経験を通じて実感してきたことは、お金の流れによって経営を俯瞰して理解する「投資家」の思考と、事業によって企業価値を創造していく「事業家」の思考を併せ持って企業経営を実践していくことの重要性だ。前者をファイナンスの思考、後者を戦略の思考と言い換えてもよいだろう。経営者がファイナンスと戦略の両分野に精通することで、経営の全体像が俯瞰でき、企業の長期的な成長を実現できるのである。

企業価値をキャッシュフローから
考えるファイナンス

 経営者がファイナンスを理解することの大切さを知ってほしい。投資家は、企業に投資を行い、その経営改革や事業改善によって企業価値を創造し、そこからリターンを得ていく。この過程において経営者が投資家と対等の議論を展開する際には、ファイナンスの概念や理論が両者の「共通言語」となる。会計が、企業の業績を年度単位で記録するのに対し、ファイナンスは、事業から生み出される将来のキャッシュフローというお金の流れによって企業価値を考える点に違いがある。
 ファイナンスの概念や理論は、難解なデータや数式で示されることが多いことから、投資ファンドなど一部の専門家のためのもの、あるいは企業においては財務部門のためのものと誤解されてきた面がある。しかし、企業の経営者がファイナンスの概念や理論に精通すれば、企業経営におけるお金の流れを企業価値評価の枠組みに沿ってシミュレーションできるようになり、たとえ事業環境が大きく変化しても企業価値を持続的に創造する経営の舵取りを続けることができる。また、短期的な株主資本主義とは一線を画して、長期的に企業価値を創造していく経営に取り組むこともできるはずである

成長と稼ぐ力を軸とする戦略が
キャッシュフローを増大させる

 経営のもう一つの軸が戦略であり、戦略は企業価値を高める上での重要な道筋となる。企業全体の針路を決める全社戦略、各事業の事業戦略、事業横断での機能戦略、財務戦略などが、キャッシュフローの大きさ、キャッシュフローが生まれるタイミングなどを左右するため極めて大切だが、ともすれば目の前にある課題や取り組みやすい課題に対するものになりやすい。また、戦略という言葉は安易に使われることが多いため、曖昧な概念として捉えられ、戦略の概念は多種多様でもある。
 戦略の全体構造を整理すると、三つの上位概念が挙げられる。企業の存在意義である「ミッション」、ミッションを達成するために企業が将来的に目指す姿である「ビジョン」、企業が大切にする価値観である「バリュー」である。これらのもとに全社戦略、事業戦略、機能戦略があり、これらの戦略を実現していくために、組織として構築すべき組織スキル、組織体制・組織運営、人材マネジメントなどがある。企業価値は、こうした戦略の全体構造によって事業から利益などとして生み出されるキャッシュフローをもとに創造されていく。
戦略を考える際に忘れてはならないのは、企業の「成長」と「稼ぐ力」だ。成長とは、売上高の増加などによって表される。また、稼ぐ力とは、事業の運営から生み出される利益の大きさであり、事業に投下している資本の大きさに対する水準として表される。そして、成長は最低限の稼ぐ力を伴わないままであると企業価値の破壊につながる。稼ぐ力は、資本と負債の調達にかかる加重平均資本コストを上回らなければならず、このことを意識しない戦略は企業価値の創造につながらない。
 ファイナンスは、戦略に基づく経営行為という「原因」と企業価値という「結果」の因果関係を解き明かし、戦略がどのようにキャッシュフローにつながるのかを語ってくれる。つまり、戦略の効果を検証せずに経営改革にも消極的な「言いっ放しの経営」を防ぐことになる。経営者が事業家としての視点と投資家としての視点を併せ持ち、戦略とファイナンスがクロスオーバーする思考を深めていくことの意義がここにある。

授業ではグループワークや
経営者との交流機会を提供

 授業では、戦略およびファイナンスそれぞれの本質を理解しながら、経営におけるそれらのつながりを明らかにすることによって、戦略とファイナンスを一体的に使って経営を体系的に実践する力の基礎を培っていく。実践的な課題に取り組むグループワークやプレゼンテーション、第一線の経営者との交流等の機会を提供している。WBSは、ビジネスに関する理論と実践を総合的に学ぶことができる充実したカリキュラム、豊かな経験と知見を備えた教授陣に加え、さまざまなバックグランドを持つ多数の学生たちとの切磋琢磨など、グローバルなビジネスの現場で活躍するための実践知を身につけられる環境が整っている。

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