全国大学院特集

早稲田大学大学院 会計研究科
私立(共学) ワセダダイガクダイガクイン

WEB講義◎会計・監査と情報システム

会計情報システムの基礎力、応用力、実務力を養成。
企業のさまざまな業務を統合的に管理し、
業務の効率化や経営の全体的最適化をめざす

早稲田大学大学院
会計研究科(専門職大学院)
●鈴木 孝則(すずき たかのり) 教授
東京工業大学工学部卒業。同大学院理工学研究科修士課程修了。早稲田大学大学院社会科学研究科修士課程修了、同研究科博士後期課程満期退学。博士(学術)(早稲田大学)。アクセンチュア株式会社、早稲田大学助教授を経て現職。公認会計士。主な著書に、『契約理論による会計研究』『会計情報のモデル分析』『会計情報のモデル分析Ⅱ』。

会計そのものを
情報システムとして捉える

会計業務には、株主や投資家に向けた情報開示という目的に加えて、経営の意思決定に必要な情報をリアルタイムで提供する役割が求められている。そのため会計担当者にとって、ビジネスを支える仕組みを理解することに加えて、会計情報システムに関する理解や各種の企業業務データを目的に応じて編集加工できるITスキルも欠かせなくなっている。
本研究科では、多くの大企業のビジネスプロセスがERP(企業資源計画)システムにより管理されていることから、獲得すべきITスキルの中核にERPシステムスキルを位置づけ、ERPシステムの実機を活用した複数の関連講座を展開している。ERPは、調達、生産、販売、在庫、人事、会計など、企業のさまざまな業務を統合的に管理し、業務の効率化や経営の全体的最適化をめざす大規模システムであり、データの二重管理を防げる大きなメリットがある。
会計や監査を行うためにERPのような会計情報システムを使いこなす前提となる会計情報システム全体を把握できる知識がきわめて重要になる。会計情報システムが企業活動全体に及ぼす影響力が大きいからだ。
一般的に会計情報システムと聞くと、ITが会計処理を自動サポートしてくれるというイメージを持っているかもしれないが、会計や監査における情報システムに関しては、ITスキル的知識だけでは真の理解にはつながらない。そこでは、会計情報を出力する仕組みである会計そのものを情報システムとして捉える視点を持つことも非常に大切となる。私が担当しているいくつかの授業では、会計情報システムの機能を基礎から理解することに重点を置きながら、応用、実務を体系的に学べるように工夫している。
授業は、会計や監査で用いる情報システムの意義を明確に認識できるようにするために、その根底にある基礎的な概念や基本的な論点について理解を深めるところからスタートする。人の心証とは何か、そして心証の更新とは何かの理解から始まり、情報システムの定義、情報システムの信頼性と価値、情報システムの設計、リスクが意思決定に及ぼす影響、プロジェクト参加への動機付けなどについて講義を進めていく。

会計情報システムを用いた
実効力のある契約

プロジェクトの成果であるキャッシュフローの配分が、会計情報システムから出力されるシグナルにもとづいて行われるとすると、人はプロジェクトの遂行において、2種類の不確実性(リスク)に直面することになる。1つは、プロジェクトの成果であるキャッシュフロー自身が制御不能な環境要因によって左右されてしまうというリスクであり、もう1つは、会計情報システムから出力される業績情報というシグナルが制御不能なノイズによって左右されてしまうというリスクである。
人は、その生来の性質としてリスクを嫌うものだとすれば、個人単独ではこれらのリスクに耐えきれず、たとえ社会的に有意義なプロジェクトであったとしても、その実行をあきらめてしまうかもしれない。そこで登場するのが、これら2種類のリスクを複数人で分かち合い、個人としてのリスク負担を軽減し、もって各人がプロジェクトに参加できるようにするという考え方である。この考え方は、「会計情報システムから出力される不完全な業績シグナルにもとづいて、どのように成果配分を行うか」についての契約を適切に設計することによって、各人がプロジェクトに参加する意欲を持てるようにすることで実現される。
ところで、このような契約を設計するにあたって特に留意すべき点は、個人によってリスクに対する態度に差異があるという事実をうまく考慮する必要があるということである。大きなリスクを取るかわりに大きなリターンを期待する傾向のある人もいれば、大きなリスクを避ける代償として小さなリターンしか期待しないという傾向のある人もいるだろう。前者に対しては、得られる金額の期待値を高めて変動の多い配分方法の選択肢を与え、後者に対しては、金額の期待値を下げてでも変動が少ない配分方法の選択肢を与えるような契約を設計することによって、より効率的にリスクを分散し、もって各人が期待できる満足度(期待効用)をより大きくすることができるのである。

意思決定と会計情報システムの
信頼性および価値

会計情報システムの応用として、会計制度設計、監査計画、経営意思決定、報酬や配当の設計等への適用力を養っていく。そこでは、株式会社制度における企業の存続と会計情報システムの関係の理解をはじめ、経営者や株主の期待効用を高める上での発生主義会計と現金主義会計の優劣、変動予算制度と固定予算制度の優劣といった比較などが行われる。また、実務における金額管理、物量管理、アドミニストレーションを習得するという授業内容を通じて、会計業務そのものを情報システムとして捉えられる応用力を身につけていく。
人は、不確実な状況のもとで行動選択を迫られた場合、各種の情報を入手しようと試みる。それは、株主や経営者であっても同様である。経営者や株主は、会計情報システムから出力される利益という情報を得て、将来キャッシュフローに関する確率信念を改訂し、自己の期待効用をより高める選択を行う。設備投資をはじめとする経営意思決定、報酬や配当の決定といった、さまざまな意思決定への対応方法を習得することは大切だが、意思決定が会計情報システムの信頼性や価値とどのように関連しているのかを理解しておくことも大切で、授業全体の大きな目的の一つとなっている。

PAGE TOP