法科大学院ガイド

日本大学法科大学院
私立(共学)東京 ニホンダイガク [PR]

WEB講義◎民法

私人の権利を保障する、私法における一般法。
各条文の位置付けを民法理論の構造から理解して欲しい。

日本大学法科大学院 教授 平野 裕之
●明治大学法学部に在学中の1981年に司法試験合格。84年3月、同大学大学院法学研究科博士前期課程修了。明治大学法学部教授などを経て、04年の法科大学院開設と同時に慶應義塾大学法科大学院教授に就任(現在、慶應義塾大学名誉教授)。以来、法科大学院での教育に従事すると共に、新旧司法試験委員を歴任。23年4月より現職。近著に、『債権総論[第2版]』など。

私法における一般法
物権や債権など5編から成る

民法は、私人と私人の間における権利義務を規律する私法における一般法と位置づけられ、商法などの特別法で規律されていない事柄については、民法を解釈して適用される。法典は、総則、物権、債権、親族、相続の5編から成る。
「財産をめぐる権利は、物権と債権に分けられます。所有権など物権の対象は『物』に限られ、一人が支配すると他者が利用できない『有体物』です。一方、著作権などの『無体財産』は、民法の特別法となる知的財産法により規律されます。
債権で特に問題になるのが譲渡や処分した際の金銭債権です。建物を建築してもらう債権などは、履行を受けるだけの権利ですが、債務が履行されなかった場合は損害賠償が問題になります。
民法に規定がないものの重要な権利に『人格権』があります。生命や身体など『人』の人格的利益に関わる権利です。それが侵害された際には、損害賠償(慰謝料)の請求だけでなく、差止請求を起こすことも可能です。名誉を毀損する書籍が出版された場合、その回収を求めることができます」と、日本大学法科大学院の平野裕之教授が解説する。

原則や例外の整理を通して
民法理論の構造を理解する

民法は条文が多いため、各条文が民法理論のどこに位置付けることができるのか、民法の論理構造の理解が大切だと同教授は指摘する。
「民法の根本原則は私的自治で、債権法ではこの原則から契約自由や契約行為などの相対効といった原則や、『利益と雖(いえど)も強制しえない』という原則が導かれます。また、物権法においては、私的自治の原則から『無から有は生じない』という無権利の法理が導かれます。その結果、Aが所有する絵画を、Bが自分の所有物と嘘をついてCに売却しても、所有権を有しないBがこれをCに移転させることができないことになります。しかし、それでは安心して取引ができなくなってしまうため、取引の安全を保護するための修正原理として外観法理が認められています。CはBが所有者だと信じて購入したならば、有効に所有権を取得できるものとする法理です。
原則や例外を整理することが大切で、これらを意識しながら条文の論理構成を深く理解することができるように、授業で努めています」

[ケ-ススタディ]
「暴利行為」にどのように対処すべきか

民法90条(公序良俗)
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

民法に「契約は守られなければならない」と言う契約拘束力の原則がある一方、人の弱みにつけこんで暴利を図る「暴利行為」を端的に規制する条文は民法にはない。例えば、軽度の認知症にかかっている一人暮らしの高齢者が、寝具の訪問販売業者から、高級な羽毛布団を言葉巧みに買わされた上、業者間の「かもリスト」に載せられ、それ以後、複数の業者が訪れ、そのお年寄りは断われずに必要もない高級寝具を多数買わされ、全て使用することなく押し入れに眠っていたとする。しかも、販売価格は仕入れ価格の10倍以上だった。
詐欺や強迫による契約であれば、民法96条1項により、契約を取り消すことができるものの、詐欺や強迫をしていなかった場合はどのように対処すべきであろうか。
ここで持つべき視点は契約拘束力の原則を排除する条文の検討であり、それが民法90条である。「暴利行為」は公の秩序に反する行為と言え、契約は無効だと主張することができよう。
また、実務で大切になるのが、支払った代金をいかに取り戻すかという点になる。訪問販売業者が既に倒産しているケースであれば、暴利行為を民法709条の不法行為とし、当該訪問販売業者の関与者に損害賠償請求の訴えを起こす。「暴利行為」を知っていたと考えられる経営者や経理担当社員などが、不法行為を幇助(ほうじょ)していたとして責任を問えるのか、違法な事業を知りつつ事務所を貸した賃貸人はどうかなどが問題となる。

[私の授業]
先例のない問題に直面しても対処できる能力と自信を身につけることが目標です。

私が担当している科目は、2年生向けの「民事法系演習Ⅰ」と3年生向けの「民事法系演習Ⅱ」です。どちらとも、司法試験の論文式試験のような長文の事案を法的な視点から分析し、受講生と共に設問を解決していくという授業です。授業は、いわゆるソクラテスメソッドにより、私から質問をして受講生に発言をしてもらいながら進めていきます。法曹となるために必要な法的思考能力を養ってもらうことを目的にしています。
原告であればどのような主張ができるのか、またその主張に対してどのような反論が考えられるのかなど、学理的に水準の高い議論を通して、法曹実務に就いたときに先例のない問題に直面しても対処できる能力と自信を身につけることを目標に置いています。妥当な解決策を検討する際には、関連する応用的な質問も行い、その場で自分の頭で考えるという、暗記に頼らない応用的思考能力の涵養も目指しています。

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